- 4. 軸体

軸体とは

次の第二の要素は軸材による構造である。今日、この構造は異なる技術分野において応用されている。後に挙げる建築、木組みの立体パズル及び化学繊維の立体織等の分野においてである。

それぞれの分野においては適宜な名称で呼んでいるが、幾何学の分野においては、発展途上の段階に位置しているため、明確に概念化が定まってはいない。

ただし、ここで挙げる構造の一部については、宮崎興二が建築における構造として多線体と呼び(文献15参照)、また岡利一郎は、論文において多軸体と命名している(文献16参照)。

私は、永年の幾何学に関する研究を通して、多面体に対応するものや、後に述べることになるその変容型のものについては多軸体と、そして包まれた空間でない、例えば、面等に対応するものについては単に軸体と呼ぶことが適切であると判断し、以下多体軸体及び軸体という。

そこで、既に発表されている多軸体及び軸体を例に用いてその概念を具体的に説明するが、これらの幾何学概念はユークリッド幾何学とは異なる点があるため、先ずその幾何学的概念について明確に説明する。そこでは幾何学の基本的な対象である線を扱うため、ユークリッド幾何の概念との異なる点を比較する。

ユークリッド幾何において、線は点の集合であり幅のない長さとして定義されている(「原論」第1巻23個の定義の一つ)。そして、この概念は平面及び立体にも及んでいる。比較のため、先に示した図219の正12面体17の枠構造を用いることにする。

図220

図221

図222

図219

ユークリッド幾何の観点から、この立体を構成する稜線は、概念上極限まで拡大視したとしてもその幅に変化はなく、太さという実体も有してはいない。しかし、線が太さ・幅を有する実体としてとらえることができることもまた概念上の事実である。

図220は正12面体のそれぞれの稜線が太さを有した状態を示している。概念上、線分は極限まで拡大視しても太さを有するという前提条件である。線ではあるが、ここでは軸と解釈する。

この軸の交点は、線のそれとは異なり交わることはない。

よって、軸は多面体の各頂点に準じて規則的に交差することになる。軸が多面体に準じて多軸体を構成する場合、軸の交差を右重ね旋回若しくは左重ね旋回のどちらかに統一することでその形を構成することができる。

この規則性を保持した上で軸の交差によってできる三角形状の空間18を徐々に広げていく。それによって、軸同士の接点は軸の長手中心方向へと除々にずれ、形態が変容することになる。

その変容を 図221から図225にかけての5段階で示す。

この一連の変容過程において軸の太さが一定であるならば、多軸体の大きさは、軸の太さに対して図221から図223にかけて徐々に小さなり、図223が最も小さくなる。そして、この状態を境にして図225にかけて徐々に大きくなっていく。これらの図において、軸は無限延長する形態となるが、多軸体の形態の変容を明確に示すため、軸交差部より外方側の延長部は切断し、省略して示している。

図226は正20面体5の枠構造を示すが、図225の多軸体はこの正20面体に対応する多軸体であることが理解できる。これらの多軸体の変容工程から、正12面体に対応する多軸体から正20面体に対応する多軸体の変容が一連の軸構成の変容であることが理解できる。

正20面体と正12面体はお互いに双対の関係にある。

この双対関係をユークリッド幾何の観点からすれば、2つの独立した立体を示し、頂点の数と面の数を入れ換えることによってお互いの形態を入れ換えることのできる関係にあると説明できる。しかし多軸体の観点からすれば、2つの立体の間にはトポロジー的性質を認めることができる。

この概念は、幾何学の範疇において非ユークリッド幾何における射影幾何の範疇に属するものである。射影幾何学の無限遠線の解釈に基づけば、線は太さを有した軸へと置き換えて解釈ができる(文献17参照)。

以下、既に発表されている軸体及び多軸体を例に用いてその概要を説明する。

先ず、多軸体と軸体の違いを明確に示すため軸体から挙げる。軸体は面の連結に準じた構造体である。その一つの例として、英国カベントリー(Coventry)大学のオリバー・バベレル(Oliver Baverel)は、軸体の連結を主に建築物の屋根構造として技術転換することを提案している(特許公開文献4および文献18参照)。

図223

図224

図225

図226

図227

その構成要素の斜視図を参考図227で示すが、これは先に示した多軸体における3本の軸の交差と構成は同じである。この構成要素を4角形・6角形及び8角形の面の連結に準じて連結した構成を当該特許図面は記載しており、その代表的なものを参考図228で示す。

そしてこの発明は、この連結した軸体に湾曲を加えてトンネル状のドームの屋根ができることを提案している。参考図、図229はその概念構造を示している。

更にこの発明は、軸体を屈折するために屈折部に菱形の構成を組み込んで角錐状のドーム構造ができることも提案している。

その代表的なものを参考図面にて示すと、図230はその軸構成の平面図であり、図231はその構成によって構築する構造物の外観概念図である。軸体は連結することで立体を形成することが可能である。しかし、その構成はあくまでも湾曲若しくは屈折した2次元である平面に準じている。

図228

図229

図230

多軸体へ

図231

【文献11】著者:W.W.R.Ball and H.S.M.Coxeter「Mathmatical Recreation and Essays,13th ed.」出版社:Dover,New York,1987(pp 141-144)

【文献12】著者:H.S.M.Coxeter「Regular Polytopes,3rd ed.」出版社:Dover,New York,1973(pp27-30)

【文献13】著者:宮崎興二「多面体と建築」出版社:彰国社、昭和54年第1版(ゾーン多面体の特徴pp176-178、ゾーン多面体の形成方法pp172-176)

【文献14】著者:George W.Hart「The Mathematica Journal,vol.7 no.3」,1999

【文献15】著者:宮崎興二「建築のかたち百科」、出版社:彰国社、’00年1版(多線体pp94-95、日詰明男の立体組織及びアラン・ホールディングの星型多軸体p69の図9、日詰明男の立体組織p94の図14)

【文献16】「形の文化誌[4]」出版社:工作舎(生命の形と球と秩序構造-黄金軸と多軸体pp118-127、本特許明細書図面図240は121項図4-bに該当、本特許明細書の図241は121項図4-aに該当、全てのプラトン立体の入れ子状態に準じる多軸体は121項図4-dに該当)

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