- 1. 背景‐Ⅰ

第三の構造に至る経緯

・・・・次に、第三の構造を体系的に形成するしくみがいかにして生み出されたか、その背景について語ろう。

内部支持体を必要としないドーム状建築物の典型的なものにジオデシックドームがある。このドームは、1950年代中頃R.Buckminster Fuller(バックミンスター・フラー)により発明され、フラードームとも呼ばれている(詳しくは特許文献1を参照)。

また1970年代初頭、Zone System(ゾーンシステム、ただし今日ではZome-Systemともいう)に基づいてドーム状の構造やトラス構造を構築する方法がSteve Baer(ステーブ・ベイヤー)により発明された。この方法は31ゾーンシステムといい、そのシステムによって構築するドームは“Zomes”(ゾーム)と呼ばれている。以下、このZomesをゾームという(詳しくは特許文献2を参照)。

なお、この31ゾーンシステムは、Zonohedron(ゾーン多面体または菱形多面体)を形成するゾーンシステムの一部である。以下、このZonohedronをゾーン多面体という。

ジオデシックドームとゾームの明確な違いは、その設計思想から形成する形態にある。前者は球形多面体による構造を特徴とし、球形の単体が主な形態である。図1は典型的なジオデシックドームを示しており、三角格子のフレーム構造である。

それに対し、後者のフレーム構造は基本的に菱形の格子からなり、その形態はゾーンシステムに基づき多種多様性に富んでいる。

例えばその形態が比較的多数の面を有する場合、球形に近似する多面体となり、ジオデシックドームに類似する形態となる。図2の左上部がそれを示している。また同図の下部が示すように、多面体の備えている座標軸に対して形態を平行移動したり連結したりすることで形態を変容することができる。

更に、最終構築物への適用においては、図3で示すように立地面に対して垂直となる構造用要素を延長し、それを柱状材とすれば自立可能となる構造を構成することができ、その点が便宜な利得となっている。

両者にはこの様な違いはあるが、その設計思想の原点においては幾何学的要素としての共通点が存在する。

それはプラトン立体(正多面体)の備えている回転対称軸を基軸において基本形態を形成している点である。

図4は、レオナルド・ダビンチが5つのプラトン立体をフレーム構造で描いている。次の図5は、その5つ内の二つの立体を取り上げ、それぞれの回転座標軸を示している。回転対象軸については、幾何学の項において詳しく述べることにしよう。しかし、この軸の構成こそ、プラトン立体の背後にひかえる領域を理解する要となることだけはここで述べておきたい。

では、両者の設計思想の相違はどこにあるか。

それは、この回転対称軸に対する観点にある。それよって両者は対極の関係にあるといえる。

前者は、回転対称軸に基づいて球面の細分化を行ない、その細分化の拡大を目指している。しかし後者は、回転対称軸の構成自体に自由度を持たせることで多様な形態の形成を行ない、その多様化の拡大を目指している。

この点を具体的に説明すると、ジオデシックドームは、回転対称軸の交点を球の中心とし、それぞれの軸に対応した測地線を球面上に描き、その測地線の交差によって形成する格子を基本構造に用いている。

図6は3本の回転対称軸を任意に配置し、それらの軸に対応する測地線(大円)を描いている。ここでこの「対応する」とは座標軸に対して水平に位置することを意味する。図7は、正六ならびに正八面体の回転対称軸に対応する測地線によってできる球体を示している。

そしてそれら格子を球面幾何学によって細分化することで球面を総三角形のグリットで覆う、いわゆる球面分割方法によってドーム構造を構築している(詳しくは文献4を参照)。

図8はフラーが模型を用いてジオデシック理論を説明している写真である。この図の模型もそうであるが、フラーが採用したドームの核となるプラトン立体は、正12ならびに正20面体である。フラーはそれらを単独もしくは組み合わせて用いているが、この図の模型は両方用いることで形成する測地線から成り立っている。

フラーはこの模型からもドームを作ってはいる。しかし、かなりの大規模なドームになると主要な測地線を規則的に抽出し、それを支持材として構造をなしている。

図の模型でも分かるが、測地線の重なりが星状になり、一箇所のコネクタにかなりの支持材のジョイントが

集まり連結が複雑になることが予想できる。

そこで、隣の図9で示すようには図8で示した測地線の一部を抽出して主要なグリット(格子)を形成し、三角形の細かい格子を形成し、強度を設けるわけである。

それに対しゾームを構築するゾーンシステムは、回転対称軸の交差する角度を有する菱形格子を各回転対称軸に対応する測地線上に規則的に連結させることで格子の連結帯を形成し、その帯の相互連結によって構造を構成している。さらにその回転対称軸を任意に構成することで、多様な形態を形成することが可能である(詳しくは文献4を参照)。

具体的その内容を図面を用いて説明しよう。

例えば、図5の正12面体には、貫通する10本の回転対称軸がある。それらが交差する角度は4種類ある。その角度によってできる菱形が2種類あり、これをゾーン面といい図10で示している。この2種類の面を連結することでできる立体は数多くある。また構成する軸数と面数には規則性があり、方程式が成り立つ。この場合最大90面となる。

図11は左の2種類の菱形を連結することでできる多面体を示している。

ゾーン面の連結と回転対称軸との関係はこの図からは見えてこない。詳しいことは幾何学者、George W.Hartのウェブサイトでゾーン幾何学の原理について扱っているので参考になるだろう。

ただ、その原理をイメージ的にはとらえるには少々難がある。そこで絵図を描いて簡単に説明しておこう。

図12は任意の3本の回転対称軸の構成を示しており、それぞれの軸に対して測地線を描いてはいるものの、ゾーン幾何学ではこの線を帯ほどの幅のあるものとしてとらえている。するとその帯の交差する箇所がジオデシック理論でいう点とはならずに、菱形(正確にいえば平行四辺形)となる。

図では3本の軸だが、10本の軸となればより密に帯が絡み、菱形面が自動的に配置・連結され、測地線上の帯はゾーン面の連結する面となっていく。

このしくみからこの面の帯をゾーンということになり、それによってできる多面体をゾーン多面体という。

ジオデシックドームのUSパテント.1954

図1

ゾーン構造のUSパテント,1973

図2

ZomesのUSパテント,1986

図3

プラトン立体(正多面体)

レオナルド・ダ・ビンチ作画

図4

正12と正20面体の回転対称軸

図5

3本の回転座標軸に対応する測地線(大円)

図6

測地線(大円)によってできる球

図7

フラーのジオデシック模型

図8

背景Ⅱ

三角格子の細分化

図9

Construction of a planetarium of Carl Zeiss in Jena (Germany) 1922, planned by Walther Bauersfeld

ちなみにジオデシック理論やドームはフラーの発明ではない。

フラーの発明よりも20年前の1922年、ドイツ人のウォルター・バウアーフェルトがイエナのカール・ツァイス社の屋上にジオデシックドームを建設している。左の写真である。ドイツ特許1925年取得。

詳細はこちらのサイトを参照のこと。

http://www.all-art.org/Architecture/25-5.htm

フラーの場合は1950年代になって始めて特許を取得している。

その右の写真は、フラーとジョージ・サダオによるモントリオールEXPO1967アメリカ館である。

ゾーン面 ゾーン多面体(菱形多面体)

図10 図11

ゾーンの概念図

図12