- 5. 多軸体
それに対して多軸体は、多面体に準ずるものであり、またその変容可能な形態をも含めたものである。
以下、その多軸体の例を挙げ具体的に説明する。
図232
日詰明男によるSTAR GAGE # 5
出典:http://www.starcage.org
図222
図232で示す建築家日詰明男の考案した立体組織は、先に示した図222の多軸体の構成に対応するものである。この立体組織は、構成要素が軸状ではなく帯状となって星型を形成している。
しかし、図222の多軸体における各軸を体の中心を手前にして左右から扁平な帯状にした上、更にその帯を延長し、その延長端部を接合することでこの星型状の立体を形成することができる。(特許文献5および文献15参照)。
図224
図233
また、先に示した図224の多軸体に対応する例としては、科学者アラン・ホールディングの考案した星型多軸体がある(文献15参照)。
その外観を図233で示す。この多軸体の特徴は、各軸がその延長端部において軸芯で接合し、その接合によって三本一組の軸が正三角形を形成している点である。その正三角形は6組あり、体の中心で互いに組み合うことで形態を保っている。この星型多軸体は、各軸が互いに接する接点部より延長側の軸を切断すると、図224で示した多軸体と同じ形態となる。
図223
図234
先に示した図223の多軸体は変容過程における中間の形態に位置している。その判断は、軸の接点が一方の端部から他方の端部へと移動する過程で、軸が規則的に平行に並列することから分かる。図234で示すパズル作家ステュアートT.コッフィンが考案した木組みの立体パズルはこの構造に対応する。このパズルは、断面形状が菱形のパズルピースから構成している。しかし、このピースの断面を丸い軸に置き換えることによって、先に示した図223の多軸体と構成が同じであることが分かる。
図235
図222
図223
ところで、多軸体の変容過程は、先に示した正12面体及び正20面体以外のプラトン立体に対応しても形成することができる。そこで、残る正4面体・正6面体及び正8面体に準じる多軸体の変容を示し、次にそれらの変容過程に対応する多軸体の応用例を挙げる。
正6面体と正8面体は互いに双対の関係にあり、正4面体はそれ自身で双対の関係にある。
図236から図238にかけては、正6面体と正8面体の双対の関係に準じる多軸体を3段階で示している。
図236は正6面体に近い状態を示している。各軸の交差によってできる三角形状の空間20は、正6面体の各頂点にあたる。この空間20を先に示した多軸体同様に広げていくことで形態は除々に変容していく。
図237はその変容過程における中間の形態を示し、図238は正8面体に近い形態を示している。
左より図236、図237、図238
また図239から図241にかけては、正4面体とそれ自身の双対関係に準じる多軸体の変容過程を3段階で示している。
図239は正4面体に近い状態を示している。各軸の交差によってできる三角形状の空間21は正4面体の各頂点にあたる。
この空間21を先に示した多軸体同様に広げていくことで、形態は図239から図240を経て図241へと変容する。
図241の形態は二つ一組の軸が平行となり、一連の形態の変容過程において最も小さくなる。そして三角形状の空間21は、他方の三角形状の空間22と同じ大きさとなる。更に、この空間22を除々に広げていくことで形態は逆に工程を辿り、再び正4面体に対応する形態へと変容していく。
左より図239、図240、図241
ステュアートT.コッフィンは、前記の二つの多軸体の変容工程においても、同様の構成からなる木組みのパズルを考案している。変容過程における中間の形態に位置する図237及び図241の構造をそれらのパズルに応用している。
図242
図237
その外観を図によって示すと、図242で示す立体パズル23は図237で示した多軸体に対応し、
図243
図241
図243で示す立体パズル24は図241で示した多軸体に対応する。これらの木組みのパズルにおいては、軸が角柱状となり、パズルの機能に適した形状にパズルピースを設計しているが、軸の構成は前記多軸体と同じである(文献20参照)。
多軸体の変容、軸の延長
これまでに述べてきたプラトン立体に準ずる多軸体の変容工程において、それら中間の形態に位置する多軸体の構成は、規則的に軸が並列しているため、軸を延長した場合、複数の軸が一組の束となり、その束を座標軸とみなすことができる。
その形態をそれぞれ図によって示す。
図244の多軸体は、図241の多軸体における全ての軸を四角形の角柱状に延長した構成を示し、
図244 図241
図245の多軸体は、図237の多軸体における全ての軸を6角形の角柱状に延長した構成を示している。
そして図246の多軸体は、図223の多軸体における全ての軸を円柱状に延長した構成を示している。
図245 図237
なお、各図中における一点破線の矢印は並列する軸の方向を示している。図244における一点破線は3本の座標軸を示し、図245のそれは4本の座標軸を示し、図246のそれは6本の座標軸を示している。
図246
図223
更に、これらの軸構造の内、図244及び図245の基本構成を中心に据えて、その周りに元の軸に対して平行に軸を組む構成を見せる多軸体の例がある。この重層型の多軸体の構成は、今日複合材料の立体織の繊維構成に用いられている。複合繊維は、座標軸に平行して織込んでいるが、その周りを周期的に幾重にも重ねるがごとく繊維を通すことで、強固且つしなやかな材料を作っている(文献21参照)。
図246の多軸体については、6本の座標軸を形成しており、交差軸の間には空間の占める割合が多く、繊維としては隙間が生じるため複合材料としては用いられてはいない。しかし日詰明男は、この6座標軸に準じる多軸体を用いて立体組織を考案し、工芸品や建築構造等への応用を提案している。その立体組織は、この多軸体の周りに複合材料同様幾重にも軸を通しているが、その平面図における軸の配置は非周期性を有したペンローズタイルの配置に準じている(特許文献5及び文献15参照)。
以上、軸体及び多軸体の幾何学的概念に始まり、既に発表されている多軸体の様々な技術転換をプラトン立体に即して説明してきた。それによって多軸体の特徴を次の三つにまとめることができる。
一つは、プラトン立体はユークリッド幾何の観点から捉えると多面体という面や線の構成で成り立つが、非ユークリッド幾何学の観点から捉えれば多軸体という軸構成によっても把握することができる。
二つめは、プラトン立体をユークリッド幾何学の観点から捉えると五つの多面体として区別することができるが、非ユークリッド幾何学の観点から捉えると3つに集約することができる。それは、3つの座標軸、4つの座標軸及び6つの座標軸を形成する多軸体である。
三つめは、多軸体は単体型及び重層型を含め様々な技術分野において用いられその開発の可能性がある。
【文献15】著者:宮崎興二「建築のかたち百科」、出版社:彰国社、’00年1版(多線体pp94-95、日詰明男の立体組織及びアラン・ホールディングの星型多軸体p69の図9、日詰明男の立体組織p94の図14)
【文献16】「形の文化誌[4]」出版社:工作舎(生命の形と球と秩序構造-黄金軸と多軸体pp118-127、本特許明細書図面図240は121項図4-bに該当、本特許明細書の図241は121項図4-aに該当、全てのプラトン立体の入れ子状態に準じる多軸体は121項図4-dに該当)
【文献17】著者:丹羽敏雄「射影幾何学」、出版社:実教出版
【文献18】「International Journal of Space Structures Vol.13,No.4,1998,pp215-218/Vol.15,No.2,2000,pp155-159」出版社:Multi-Science Pubishing-Co.LTD
【文献19】著者:Stewart T.Coffin「The Puzzling World of Polyhedral Dissections」出版社:Oxford University Press,1990
【文献20】著者:ジェリー・スローカム、ジャック・ボタマンズ「Puzzles Old and New」p85 出版社:日本テレビ、1988年
【文献21】「形とシンメトリーの饗宴」第2部幾何学的アートと形態学 26.ロッドによる自己保持構造の幾何学と結晶学pp258-266、著者:小川泰、手嶋吉法、渡辺慶規、2003年
【特許文献3】米国特許第3,722,153(発明者:Steave Baer,Mar.27,1973)
【特許文献4】英国特許第228,696A(発明者:Olivier Baverel,Mar.03,1999)
【特許文献5】特許開平9-202100号公報(発明者:日詰 明男)
【特許文献6】米国特許Des.232,571(発明者:Stewart T.Coffin,1974)
【特許文献7】特許開平6-288499号公報(発明者:日詰 明男)
多軸体の核へ