- 3. システムの形成
これから説明する内容は、先に述べた第三の構造に対し、いかにシステムを組み込むかという課題への、解決手段である。
それと同時に、ある秩序だった法則に基づくドーム型構造の形成原理を説明するものでもある。
原理を成す要素の組み合わせは、いたって単純なものである。しかしそこに至るには、複雑に見える幾何的要素の解釈をいかに本質的に判断するかにかかっている。
さらに、その形成原理(システム)の発見は、理論的な試行錯誤の結果というよりも、具体的な模型の設計と試作といった実験の繰り返しから導かれた結果である。
【図説】
図左のゾーン幾何学の理論は主にゾーン多面体(菱形多面体)を形成する。
神聖幾何学は、主にプラトン立体(正多面体)を主体的に扱うが、その形成は幾何学的にゾーン理論に含まれる。
一方、右の相互依存幾何学から導かれる多軸体は、規則性のある幾何法則から成り立つ形態のみならず、任意の形態も含まれる。
マルチレシプロカルグリット(MRG)やダ・ヴィンチ・グリットなどは規則性があるものの平面パターンの連結であり、後者側に属している。
前者としての多軸体は、正多面体に準じて軸体を構成することができ、そのことから、それらを正多軸体という。
そして、先のゾーン多面体に準じて形成する多軸体をゾーン多軸体という。
それらはゾーン幾何と相互依存幾何、両者の性質を引き継ぐものである。
ゾーンシステムとは、ゾーン多面体を形成する体系であり、神聖幾何学すなわち多面体幾何学の系譜においては20世紀中期以降知られる存在である。
かかる技術的な課題は、そのゾーン多面体を核とし、その外殻に多軸体を規則的に配置し、それを抽出して新たな体を形成し、この体を構造に用いることで達成することができる。それによって幾何学的原理を内包する第三の構造を導くことができる。
そして、この第三の構造の構成要素を目的とする構築物の構造用要素に転換し、且つその構造用要素が相互に連結する手段を備えることで中空状の構造体を形成し、その主要な構造用要素を抽出することでドーム型の構造体を形成することになる。
この第三の構造体が内包する幾何学的構造の原理には、核となるゾーン多面体および多軸体の二つの体が存在する。そして本構造体の要は、それら二つの体における互いの接点を見出し、新たな体を形成する点にある。
そこで、目的とするシステムの形成を述べる前に、それら二つ体について説明し、それを基にこの新たな体の形成原理、すなわちゾーン多軸体の形成原理について具体的に説明しよう。またあらかじめ、それに伴って必要となる幾何学的用語である、座標軸およびゾーン多面体・ゾーン・立体状構成要素の概念についても述べておこう。
以下、第一の体であるゾーン多面体およびその体を形成するシステムについて説明する。この多面体の構造理論は、幾何学者H.S.M.Coxeter(H・S・M・コクセター)によって1960年代に発表された。しかしそれ以前、この多面体は単に菱形多面体の範疇として断片的に発見されていたにすぎなかった。
そして1970年代初頭、この多面体の理論は建築家Steve Baer(スティーブ・ベイヤー)によって開発され、構造システムとして発表されることになる。スティーブ・ベイヤーは、この構造システムをゾーンシステムと名付けるとともに、このシステムを用いて構築するドーム状の構造物をゾームとも名付けた。
その後ゾーン多面体の形成方法は拡大し、今日に至っては幾何学者であり彫刻家のGeorge W.Hart(ジョージ・ハート)がこの形成方法を体系化している(参考文献13参照)。
ゾーン多面体とは、一般的に平行四辺形からなる凸型多面体を示して言うが、厳密には、この多面体を名付けた幾何学者コクセターにより、以下のように定義付けされている。
「ゾーン多面体とは、平行2m角形(平行多角形:二つずつの辺が平行な多角形)の面から成る凸型多面体であり、その面の数はn(n-1)である。ここでnは、多面体において互いに平行となる稜線の異なる方向の数である。」(非特許文献14参照)。なお、この定義の中で稜線の異なる方向の数とは、後に説明することになるゾーン多面体を形成する基となる座標軸の数と同じことを指している。
また、ゾーン多面体の特質として体を一回りして連結する平行四辺形の帯がその形成に関わっている。その帯は、環状を成してゾーン多面体を形成していることからZoneと呼ばれている(以下、ゾーンという)(非特許文献15および16参照)。
次に第二の体は、軸状の構成要素からなる体(多軸体)である。この体の概念には、先の項で取り上げた格子構造(MRF構造)も含まれている。さらに、この体は今日建築以外にも様々な技術分野において応用されている。例えば、化学繊維の立体織およびランプシェード・木組みの立体パズル等の分野においてである(特許文献7および参考文献17,18,19参照)。
それぞれの分野においては適宜な名称で呼んでいるが、幾何学の分野においては、発展途上の段階に位置しているため、明確な概念化と名称は定まってはいない。ただし近年、宮崎興二は建築における構造として多線体と呼び(非特許文献20参照)、岡利一郎は論文において多軸体と命名している(参考文献21参照)。
私は、永年の幾何学に関する研究を通して多面体に対応するものついては多軸体と呼ぶことが適切であると判断し、以下この幾何学的観点から多軸体という。
なお、ゾーン多面体ならびに多軸体の形成原理の詳細については、村田弘志による特許文献の「幾何学的構造に関する説明」の項において詳しく述べられている(特許文献7参照)。
そこで以下、幾何学的構造の原理について図面を参照に具体的に説明しよう。
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参考文献
【特許文献7】 特許第4153505号(発明者:村田弘志)
【参考文献13】著者:George W.Hart,「The Mathematica Journal,vol.7 no.3」,1999
【参考文献14】著者:W.W.R.Ball and H.S.M.Coxeter,「Mathmatical Recreation and Essays,13th ed.」,出版社:Dover,New York,1987,pp 141-144
【参考文献15】著者:H.S.M.Coxeter,「Regular Polytopes,3rd ed.」,出版社:Dover,New York,1973,pp27-30
【参考文献16】著者:宮崎興二、「多面体と建築」、出版社:彰国社、昭和54年第1版(ゾーン多面体の特徴 pp176-178、ゾーン多面体の形成方法 pp172-176)
【参考文献17】著者:Stewart T.Coffin,「The Puzzling World of Polyhedral Dissections」,出版社:Oxford University Press ,1990
【参考文献18】著者:ジェリー・スローカム、ジャック・ボタマンズ、「Puzzles Old and New」p85、出版社:日本テレビ、1988年
【参考文献19】著者:小川泰、手嶋吉法、渡辺慶規、「形とシンメトリーの饗宴」第2部幾何学的アートと形態学 26.(ロッドによる自己保持構造の幾何学と結晶学 pp258-266)、2003年